黄色い話

以下は壁際の脳内での出来事の一部。

 

 

いつも同じ時間に出かけ、同じ時間を通る私。

ある日地元の商店街を歩いてると、黄色いサングラスをかけたおばちゃんとすれ違って、すれ違いざまに一言。

「黄色いの何かついてますよ」

 


そのときはただ「すいません、ありがとうございます」と言ってその場を離れた。

 


家に帰宅して、言われた黄色い何かを確認しようと鏡を見るが、何もついてはいなかった。どうせサングラスの色の加減で何かついているように見えたのだろうと思い、疑問に感じることはなかった。

 


ただ、それから3日連続で同じ時間、同じ場所で、同じおばちゃんから、同じことを指摘された。

「黄色い何か、ついてますよ」

 


相当気味悪く感じた。

何回見ても黄色いものなんてついていなかったし、何より黄色のもの自体を見につけてはいなかった。

 


そこから1週間はその時間、その場所を避け、おばちゃんと遭遇しないよう願いながら生活していた。

 


その間におばちゃんと会うことはなかったが、1週間経つと私の記憶の中におばちゃんは見当たらなくなっていた。

 


記憶が抜けた頃に、私はいつもの時間にいつもの場所を歩いていた。

 


また、おばちゃんと会ってしまった。

前と同じ黄色いサングラスをかけていた。

そして私の目を見て言った。

 


「黄色い何か、ついてますよ。」

 


おばちゃんが言い終わった頃に私の記憶が呼び戻されていた。

 


思わず、

「もういいですから。何もついてないのについてるって、どうせからかってるだけでしょ?サングラスの色が黄色だからでしょ?やめてもらえませんか?」

とはっきりした口調で立て続けに言った。

 


するとおばちゃんは静かにサングラスを外し、話し始めた。

「私には心を見る力があって、その色はサングラスに映って、あなたも見ることができるの。その色のものに変えることができる。

あなたの心には黄色いものがついてるわ。」

 


私が、「は?何言って...」と言いかけたと同時におばちゃんは続けた。

 


「黄色ってことはキリンね。キリンに変えてあげる。あなたがキリンに変わるのも時間の問題よ!」

 


ようやく理解が出来た。

 


おばちゃんは人を平気でキリンに変えてしまう人だった。

どおりで近頃のニュースは、キリンの大量繁殖で埋め尽くされてるわけだ。

 


「何も言わなかったら、ほんとにキリンに変えるよ!どうするの?」と強気なおばちゃん。

 


恐怖感が募るなか、

とっさに、

「嫌だ!あんなに大量のほくろが出来るなんて嫌だ!」と叫んだ。

 


おばちゃんの方を見た。

黄色い涙を流しながら、「あれは斑点なのに...」と呟いた後、

静かに去っていった。

 


学がないことが功を奏し、キリンになることを免れたのだ。

 


それ以後、おばちゃんを見かけることは二度となかった。

 


その代わり、今日もキリンが少しずつ増え続けている。